「空き家バンク」で物件取引 本当に大丈夫?
今回は、30年以上のお付き合いをさせて頂いている「親友」からの相談で始まった「空き家バンク」の利用について紹介したいと思います。個人的な見解ですので参考にしていただけたらと思います。
理由
記載すべき交渉内容や、条件を記入した「譲渡契約書」を何時・誰が作成するのか。万一、書き漏れや間違いがあると、後から修正や追加することが難しかったり
契約後即物件引き渡しといった条件下では、それすら不可能な場合があるから。
空地・空家の現状
「空き家バンク」という言葉を耳にして久しい昨今ですが、実際に利用された方やこれから利用しようとされている方は、まだまだ少ないのではないでしょうか。
「待ったなし!」で先送りできない問題の一つに「空地・空家問題」が挙げられます。要因の一つには、これまで相続による所有権移転登記が「任意」だったということです。
2024年4月1日から義務化され、今後は罰則規定も適用されることとなりました。ただ、ここに至るまでの膨大な時間経過により所有者不明や相続人不明といった不動産がいたるところに存在していることは言うまでもありません。
こうした所有者不明の不動産の対処や有効利用を行うには、膨れ上がった相続人の特定や現状把握、本人たちの意向やその打ち合わせ等に膨大な時間と経費が付きまとい、一足飛びに解決するのが困難なようです。
たまに、TVで取り上げられている「行政代執行」による「枝張りの大きくなった樹木の伐採」・「放置ゴミの撤去」・近隣住人を含む命の危に晒されているような「倒壊しそうな建物」を解体したというニュースは聞いたことがあるのではないでしょうか。
原則として、これらに掛かる費用は一旦税金が投下され、その後全額所有者負担になるのですが「所有者死亡」等により税金の回収が困難になっているケースもあるようです。
東京・大阪・名古屋などの都市圏いおいても「空地・空家」は存在していますが、その比較にならないくらい、地方においては問題が深刻化しています。
そんな中、同じ「空地・空家」であっても、所有者が明白であれば比較的スムーズに取引が出来るのではないかと思ってしまいますよね。
答えは「そんなことはない」です。その裏付けの一つとして、とりわけ都市圏を除く地方では、「空き家バンク」と言った政策が、各地方自治体によって執り行われているわけです。
もともと過疎化が進んでいた地域では、新たに少子化に伴う人口減少といった津波が押し寄せて、地方自治は既に崩壊している地域も珍しくありません。
言うまでもなく、そんな地域に存する土地や建物を欲しがる人はごく稀であり、所有者が明白であっても貰い手が見つからないのが現状です。
親友との会話
私は兵庫県在住で、親友は愛知県在住のため、実際には電話やラインでやり取りをして、誤認が起きないように、後でメモを送ったりしたときの経緯です。
「親友」からの相談依頼も、そんな過疎化が進む地方に父親が所有する土地・建物を処分するといった内容でした。
「親友」:既に都市部に転居している父親が、地方に残してきた不動産を処分したがっているのだけど、なかなか売れずに困ってたんだけど、「空き家バンク」に登録したら、ようやく貰い手が見つかったらしいんだよ。譲渡するにあたり気を付けておくことって何かある?
「私」:それは良かったね。しかし、どんな人が買ってくれることになったの?地元の人でしょ?
「親友」:いや、それがさっ、東京の現役大学生が貰い受けてくれるみたいなんだ。なにやらゼミの研究目的で必要なんだって。あと、売買じゃなくて「無償譲渡」だよ。立地的に見ても、築年数から見ても誰もお金出してまで買ってくれるわけないよ。
「私」:そりゃあ厳しいね。タダかぁ。でもお父様は納得してるんでしょ?
「親友」:そうだね。遠方過ぎて管理も出来たもんじゃないし、近隣の人にも迷惑かけたくないから、使ってくれる人がいるだけでうれしいんだって。「肩の荷が下りる」って。
「私」:時代だよねぇ。さすがに抗えないよね。わかったわかった。じゃあ、注意点と言うことだけど、その「空き家バンク」の方で取りまとめ(仲介)てくれるんだったら、僕が口出しすると嫌がられそうだけど、第三者と言う立場で、とりあえず取引に関する書面だけでも目は通そうかな。
「親友」:その事なんだけど、「空き家バンク」の主催者側では「宅建業」を行っていないから、「取引自体は双方で取りまとめてください」って事らしいのよ。
「私」:えっ?そうなの?
「空き家バンク」について、これまで関わった事がなかった私は、正直戸惑いを隠しきれませんでした。プロ(宅建業者)同士の直接取引は、日常的に行ってはいますが、素人同士となると、はたしてスムーズに取引が完了できるものなのか、といった心配が怒涛の如く頭を駆け巡りました。
「私」:「売買契約・・・」じゃないや、え~っと「譲渡契約書」みたいな書類って手元にある?送ってくれる?
「親友」:ないよ。学生さん達が言うには、「これから教授に師事して自分たちで作成する」らしいよ。
「私」:じゃあ、その学生さん達とは会ったの?
「親友」:いや、これからだね。明日かな?東京からわざわざ愛知県まで会いに来てくれることになってるらしいよ。
「私」:えっ?明日なの?
「親友」:そうみたい。でも、大丈夫だと思うよ。電話では礼儀正しかったし、身分証明書等の本人確認で必要な、免許証とか住民票とか持ってくるみたい。向こうもこちらが所有者であるかの確認がしたいらしいよ。
「私」:確認かぁ、まあ、確認は必要だけど・・・。
翌日になって「学生さん達と会ったよ」との連絡があり、「お互いの身分証を交換しただけだよ」とのことでした。学生さん達は「本日はご挨拶も兼ねてお伺いさせて頂きました。書類関係は後日出来上がり次第送ります」と言い残して別れたようでした。
そして、数日が過ぎたある日「書類が届いたので見てくれないかな」と親友から連絡がきました。早速、中身を拝見した時「これ、マズくないか」と思ったわけです。
譲渡契約書の中身
私は不動産取引を生業として生計を立てています。よって、良いことか悪いことかは別にして、書類の内容は全て「疑いの目」で見てしまいます。
第一印象を述べるとすれば「これらの書面では譲る側も譲られる側も、後々大きな問題を抱える可能性が十分あり得る」でした。
契約は双方合意の上でなされなくてはなりません。つまり「良いことも悪いことも全て双方が納得の上で契約」しなければならないということです。
しかしながら「良いことも悪いことも全て文章に記載されていれば」です。今回の書類にはそれがないわけです。
今一つ挙げるとすれば「敷地境界の明示」について、事前に何も話し合がされていないことなどです。譲る側も譲られる側もそこに意識などありませんでした。
早速、「親友」にたいして資料を送ることにしました。通常使用している「売買契約書のひな型」です。そしてすぐに頂いた書面の内容と照らし合わせて気になった箇所を文字に起こしてメールしました。ざっと一読しただけでもこのくらいありました。
その内容が以下の文面です。
先に添付しているPDF資料は通常使用する「売買」契約書のひな型です。 頂いた契約書面を上から照らし合わせているだけですが、確認して気になる箇所を列挙しています。 1.細かいことですが、文章の構成は順列でいえば「項」は「条」の後に来るものと認識しているので、「第1項」よりは「第一条」の方がしっくりきます。 2.次の通り契約する→契約した(過去形にする根拠があるはずです) 3.第2項「住居」ではなく「建物」、「面積」ではなく「地積」として登記されているので、変更した方が尚良い 「家屋番号」も加入した方がより良い 4.持ち分の記載→「対象物件はこれ以外ないですよ」の意 5.「第3項」記載の名義変更ですが、これはこれでありだと思いますが、期日を指定(例えば令和6年8月30日(金)迄)のようにした方が、後で確認しやすいと思います。 6.「第4項」の内容について、「保存登記」との文言がありますが、譲受人は建物解体後、建物の滅失登記を行い、新たに建物を新築する予定があるのでしょうか。 「保存登記」とは、中古物件の取引には登場しない名称で、新たに建てた建物として初めて登記する場合に使う名称です。 この内容の可能性としては、譲受人が、「土地」及び「建物」を譲受した後、土地だけ所有権移転し、その後、土地として第三者に転売、或いは建物を再建築して第三者に販売することが出来る内容になっています。 仮に、それで将来譲受人が利益を出したとしても文句は言えません、ということです。 7.「第5項」の移転登記は司法書士に依頼されるのでしょうか。依頼されるのであればその先生の所在と連絡先を伺っておくほうが良いです。司法書士にはお父様が所有者である根拠として本人確認を行う義務があります。費用が発生する場合もありますので確認してください。住所移転登記も済んでますし、抹消が必要な権利等は付いていないようですから、関西圏では、おおよそ2万円~3万円程度です。東海圏はちょっと違うかもです。 8.「第6項」の公租公課(固定資産税や都市計画税)の精算の方法がちょっと曖昧ではないかと思われます。 通常、固定資産税等は、一括払いあるいは4回分納になります。もし、本年度分を一括で支払われていた場合、過払い金が発生します。取引上で取り決める場合「過払い金の精算はしないものとする」もしくは移転登記日をもって、その前日までを譲渡人、登記日以降締め日までを譲受人が負担し、いついつまでに清算するものとする」などと取り決めておいた方が気持ちよいでしょう。 99.「第7項」瑕疵の負担は、数年前の民法改正で「契約不適合責任」と名称および内容が変わっています。文言としは、「譲渡人は(契約不適合責任)の定めにかかわらず、本物件の隠れたる瑕疵につき一切の担保責任を負わないこととし、譲受人はこれを確認しました。また、譲渡人は、設備につき一切の修復義務を負わないこととします。」と書き換えた方が尚良いでしょう。 特約として、記載した方が良い文言の一例を記載します。 1.本物件周辺に所在する建築物等の影響により電波受信状況に影響が出た場合、テレビ共聴・有料ケーブル等を利用する必要がある事を譲受人は了承するものとします。 2.譲渡人は都市計画法、建築基準法等、またそれ以外の法令に基づく制限については、調査しておりません。また、「私道の負担の有無」や「造成宅地防災区域内か否か」、「土砂災害警戒区域内か否か」、「津波災害警戒区域内か否か」、「市町村が発行するハザードマップの対象区域内か否か」、「建物内にアスベストが含有されているか否か」、「建築確認済証及び検査済証の有無」、「増改築の有無や建物状況調査、耐震診断の実施等、建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の保存や建物の耐震診断」等についても確認していません。更に「飲用水・ガス・電気の供給施設及び排水施設の整備状況」等についても調査しておりません。よって譲受人は、本物件を譲受した際にその目的が果たせなかったことが明らかな場合であっても、譲渡人に一切の苦情や損害賠償等金銭の請求等はできないこととし、また将来、法令の改正等により対象不動産の利用等に関する制限が付加または緩和される場合があることを了承するものとする。 3.譲渡人は、本物件引渡し時のおける本物件建物内及び敷地内の残置物につき所有権を放棄するものとし、その処分に要する費用は譲受人が負担するものとします。ただし、譲渡人は本契約後、本物件に対してゴミ類を含む動産物等の一切を持ち込んではいけません。 4. 譲渡人及び譲受人は本物件の対象面積と、実測面積との間に差異が生じても互いに異議を申し立てないとともに、代金の請求をしないものとする。 5. 譲渡人は、譲受人に対し隣地との境界明示(境界標の設置等を含む)を行わず本物件を引き渡し、譲受人はこれに同意するものとします。。 6. 譲渡人は、本物件の状況について現状有姿(敷地内外における残置物「エアコンや植栽等含む」全て)にて譲受人に引き渡すものであり、本物件の建物及び付帯物(塀等も含む)、地中埋設物(建物基礎・給配水管・配管経路等含む)、土地の不同沈下、地耐力不足、土壌汚染等に関し、契約不適合責任を免責することを譲受人は了承するものとします。 7. この契約に定めがない事項、又はこの契約条項に解釈上疑義を生じた事項については、民法その他関係法規及び不動産取引の慣行に従い、譲渡人及び譲受人が誠意をもって協議し、定めるものとする。 8.本物件周辺は第三者所有地となっているため、将来建築物が建築(または増・改築)される場合があります。建築された場合、日照・眺望・風向等に影響が出る場合があります。 9.本物件の設備等については、経年変化及び使用に伴う性能低下・使用不能・破損・錆・キズ・汚れ等がありますので予めご了承ください。 10.本物件上に将来建物を建築する際、建築を依頼する住宅メーカーや工務店から地盤・地耐力調査を要請されることがあり、その結果によっては地盤補強工事等が必要となる場合があります。地盤補強工事等については、建築する建物の構造・規模・重量及び依頼する住宅メーカーや工務店により異なります。また、地盤補強工事等については費用が発生いたしますので、予めご承知おきください。 11.本物件敷地内に建築物を建築する場合には、民法第234条(境界線付近の建築の制限)に基づき境界線から50㎝以上の距離を離す必要があります。また、建築予定の対象不動産に、隣地境界線から1メートル未満の距離に置いて他人の宅地を見通すことのできる窓または縁側(ベランダを含む)を設ける場合は、民法第235条(境界線の近くに窓などを作る場合)にもとづき、目隠しを設ける必要があります。 12.本物件建物には、アスベストが使用されている可能性があります。また、アスベストが使用されている建物の解体費用(改修費用)は、通常より高額になる場合がありますのであらかじめご承知おきください。 13.消防法および各地方公共団体の定める火災予防条例等により、すべての住宅に住宅用防災機器(火災報知機)の設置及び維持が義務付けられています。尚、本物件に前条例等に基づく住宅用防災機器の設置がなされていない個所がある場合は譲受人の負担により設置するものとします。 11.本物件が電波障害に係る地域と判明した場合、もしくは本物件周辺に所在する建築物等の影響により電波障害を受ける場合には、テレビ共聴・有料ケーブル等を利用する必要があります。この場合、本件に関する費用(設備及び新規加入料、月々の受信料等)は譲受人の負担となりますので、予めご承知おきください。 12.当地域に町・自治会があるかは不明です。 |
他にも想像しうる下記のような内容もあります。想定できることを挙げ出せばきりがありません。
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中身についての詳細云々はさておき、物件の現地調査や、役所等の調査等を何も行っていない状況で、既にこれだけの心配事がある状況でした。
また、司法書士数人にもお声がけさせて頂いたところ、「譲渡契約」となっているが「贈与契約」になるんじゃないか。
契約書内の文言も「譲渡人」は「贈与者」となり「譲受人」は「受贈者」とし、受贈者には贈与税が発生する場合があるなど、資料も何にもない状況で相談に乗っていただきました。ありがとうございました。
結論的には「仲介会社を介入させた方が良い」という結果になりました。ただし、今回は無償譲渡による契約ですから、仲介手数料の問題が出てくるわけです。
報酬額見直し・特例規定
原則仲介会社の手数料は、その取引に係る売買価格に対して宅建業法上定められた料率によって算出されます。つまり無償と言うことは原則0円になってしまいます。
そこで、2024年7月1日から国土交通省は、不動産市場で流通しづらい空地・空家の流通を促進するべく、仲介手数料である報酬額見直しを図り、ようやく特例規定の拡充を実施することになりました。
特例とは、「低廉な空家等(売買に係る代金の額又は交換に係る宅地又は建物の価額が800万円以下の金額の宅地又は建物をいい、当該宅地又は建物の使用の状態を問わないとされており、以上により「低廉な空家等」には、単に空き家のみならず、居住中の家屋、宅地、更地も含まれます)の媒介の特例」と言った内容です。
この新たに設けられた内容に「長期の空家等」とあり、その定義は、1年超で居住者が不在となっている空き家や、相続により今後も所有者の利用が見込まれにくいものなどが挙げられています。
なお、現に入居者の募集を行っている賃貸住宅の空き室については、事業用として「長期の空家等」には該当しないことに留意する必要はあるようです。
ようは、売買取引においては、売買価格が800万円以下となる物件を対象に、売主および買主の「双方」から最大で33万円(税込)の仲介手数料報酬を受領することが出来るようになったということです。
注意点としては、仲介会社が原則の料率を超える仲介手数料を得る場合には、媒介契約の締結時点において、依頼者に対して手数料が原則料率ではなく予め特例に定める上限の範囲内である旨を説明し、合意する必要があります。
空き家バンクの重要性と今後の活用における見直し
私が問題に感じるのは、「仲介業者を挟まない」といったケースではなく「手数料が払えないから挟めない」といったケースもあると思います。「空き家バンク」側に何らかの「役割」や「責任」を持たすべきではないかと言うことです。
今回のような場合(仲介業者不介入)、調査不十分になって「譲る側」も「譲られる側」も大きな不安を抱えることになりかねません。
「それが出来ればやっている」とか「仲介会社に何らかの補助を出すべき」といった声が聞こえてきますが、このままでは「空地・空家問題」はいつまでたっても解決の糸口が見えてこないと思うのです。
ここからは個人的な見解ですが、空家や空地であっても「固定資産税・都市計画税」の納付義務はあるはずです。
仮に、何の利益ももたらさない不動産であれば、そこに対して支払われる税金はプール(運用)して補助金に回すとか、あるいは、所有者等が不明で税金が未納であれば、差し押さえを考慮し、競売を視野に入れるべきではないかと思うのです。
また、実際には「差し押さえ」の登記は入っているのは承知していますが、そこからの進捗に多大な時間が流れているように思えてならないのです。
真面目に納税している人が損をするような社会ではいけないと思うからです。今後もこう言った同様のケースはますます増加することは必至です。
まとめ
•「空き家バンク」は物件登録を行ってくれるが「取引」に対しては「不介入」 •「空き家バンク」の物件調査は「自身」で行わなければならない •「空き家バンク」の物件購入資金調達は「自身」で行わなければならない •「空き家バンク」の物件での登記手続きや税金関係等は「誰かに相談」する必要あり •「空き家バンク」の物件を取引する「仲介会社」の介入を視野に入れた方が良い |
十分に納得いくまでチェックを怠らずに「失敗しない不動産購入」をするための参考になれば嬉しいです。
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